2026 年 08 月 14 日
日本のデジタル主権を実現するために----「SUSE SUMMIT 2026 Tokyo」イベントレポート
サイバートラストが掲げる「AI 時代の重要インフラ / サプライチェーン向けトラスト基盤構想」は、SUSE とのパートナーシップによって新たなフェーズへと突入します。サイバートラストは、2026 年 7 月 7 日に、SUSE のパートナープログラム「SUSE One Partner Program」のサファイアレベルへの登録を発表しました。
SUSE は「Open by Design, Sovereign by Choice(設計からオープン、主権は選択可能)」を戦略の中心に据えて活動を展開しています。両社のパートナーシップは、日本の重要インフラやそのサプライチェーンを支える企業に対し、どのような信頼と安心をもたらすのでしょうか。本稿では、発表された SUSE との協業の狙いやサプライチェーンの未来について、「SUSE SUMMIT 2026 Tokyo」における対談の内容からレポートします。

パートナーシップがもたらす新たな価値と安心
SUSE はドイツ発祥の Linux OS であり、その社名はドイツ語の「Software und System-Entwicklung(ソフトウェアとシステムの開発)」の頭文字に由来します。
SUSE が掲げる「Open by Design, Sovereign by Choice(設計からオープン、主権は選択可能)」とは、企業や政府が特定の IT ベンダーに過度に依存せず、自社のデータやシステムを自律的に管理するための基本理念です。SUSE はこの理念のもと、企業が特定の環境に縛られることなく、安全かつ長期にわたって IT 基盤を運用できるソリューション(SUSE Rancher Prime など)を提供しています。
サイバートラストは、SUSE の「SUSE One Partner Program」サファイアレベルへ登録し、重要インフラおよびサプライチェーンの保護に向けて SUSE との連携を本格化させます。
2026 年 7 月 7 日に開催された「SUSE SUMMIT 2026 Tokyo」では、「AI 時代の経営基盤:企業 IT はどう進化するか(ミッションクリティカル基盤のありかた)」をテーマとした講演に、サイバートラストの眞柄 泰利(Chief Business Transformation Officer 兼シニアエグゼクティブアドバイザー)が登壇。SUSE ソフトウエアソリューションズジャパンの渡辺 元氏(カントリーマネージャー)との対談が行われました。

日本のサプライチェーンが抱える構造的な危機
対談の冒頭、渡辺氏は「私が新卒で日本マイクロソフトに入社した当時の最初の上長であり、GM を務められていたのが眞柄さんでした」と自身の経歴を振り返り、「今日、こうして一緒にステージに立てることを本当に誇りに思っております」と深い謝辞を送りました。
それを受けて眞柄は、同日に発表されたニュースリリースに触れ、「サイバートラストが日本市場でソブリン OS として推進している『AlmaLinux OS』上に、AI 基盤の中核となるコンテナ管理技術『SUSE Rancher Prime』を組み合わせることで、お客様の AI 基盤導入の障壁を下げ、セキュアなデジタル主権プラットフォームを提供します」と協業の狙いを語りました。
SUSE Rancher Prime は、データセンター、クラウド、エッジなど、環境が異なる複数の Kubernetes(クバネティス)環境を一元的に管理・運用できるエンタープライズ向けプラットフォームです。
両社の協業の背景について、眞柄は日米欧の構造的な違いを指摘します。「米国やヨーロッパでは、重要インフラを守るためのシステムは内製化が進んでいます。一方、日本では国の認可基準を守るため、サプライチェーンを構成するシステムインテグレーター(SIer)がシステムの設計・開発・テスト・運用までを担う多重構造が一般的です。そのため、サプライチェーンの至る所にセキュリティリスクが潜んでいます」

このリスクに対して眞柄は、「サプライチェーン全体を含めた国際基準の遵守が最初に求められたのは防衛関連分野です。具体的には、米国の国防総省などと取引する日本企業にも、重要情報(CUI)の保護を目的とした NIST SP 800-171(米国国立標準技術研究所が策定したガイドライン)への対応が求められています」と、日本企業が直面している厳しい現状を分析しました。
SUSE が示す「Open by Design, Sovereign by Choice」という解
対談中、渡辺氏は「サイバートラストは AlmaLinux OS Foundation のプラチナスポンサーとして財団に参画しています。同じ Linux OS を提供する立場で、SUSE Rancher Prime を採用することに抵抗感はなかったのでしょうか」と率直な疑問を投げかけました。
これに対し眞柄は、「世の中のソフトウェアはこれだけオープンになっているため、名前は違っても源流を辿れば似たような技術に行き着きます。目指す先への経路は複数あっても、最終的にはベンダーとして同じゴールを目指しているはずです。競合するのではなく、それぞれの良いところをうまくハーモナイズ(調和)させてお客様に届けることこそが重要だと捉えています」と回答。
続けて、「SUSE の『Open by Design, Sovereign by Choice』というコンセプトは非常に素晴らしい。先端技術を米国のビッグテックから吸収するだけでなく、それをいかに高信頼で運用し、自律的な主権を保つかという観点において、製造業が盛んなドイツで鍛え上げられてきた SUSE から学ぶべきことは多いと考えています」と協業の戦略的意義を強調しました。

日本の OSS エンジニアの地位向上の「レバレッジ」へ
協業がもたらす価値について、渡辺氏は「日本のデジタルトラストのために尽力されているサイバートラスト様と SUSE が手を組めることは、計り知れない価値があります。これこそが、日本における『ソブリン(主権)』の実現につながると受け止めています」と高く評価しました。
サイバートラストが掲げる「AI 時代の重要インフラ / サプライチェーン向けトラスト基盤構想」の具体策として、眞柄氏は次のように説明します。「第一弾として、米国国防総省でも採用されている Dark Sky Technology の『Bulletproof Trust』を活用し、コードの出所や貢献者の背景を含むリスクを可視化します。このサービスに SUSE のプラットフォームが加わることで、開発環境から本番稼働まで、一気通貫でのセキュリティ証明が可能になります」
対談の最後に、渡辺氏が「重要インフラやサプライチェーン、防衛分野に向けて、これまで以上の信頼と安全を届けようとするその熱い思いは、どこから湧き上がってくるのでしょうか」と問うと、眞柄は「外資系テック企業での経験が長かったからですかね」と笑顔を見せました。
「かつて外資系企業でプロプライエタリな OS ビジネスを牽引していた私が、渡辺さんとこの場で OSS について語り合っているのは不思議な感覚です。しかし、この 25 年のソフトウェア業界の潮流を振り返ると、最終的に勝ち抜いたのはオープンソースであり、それを支えたエンジニアたちが本当に素晴らしかったのだと思います。ただ、日本における OSS エンジニアの地位や影響力は、まだ十分とは言えません。だからこそ、このゲームチェンジのタイミングで、オープンソースを牽引してきた人たちの地位や主権を『レバレッジ(向上・底上げ)』したいと強く願っています」と、日本の IT 業界の未来を見据えた熱い意欲を示し、対談を締めくくりました。








