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トラスト基盤

2026 年 07 月 27 日

AI 活用の加速で高まる OSS の脆弱性リスクに備える ~ AI 時代の重要インフラサプライチェーン向けトラスト基盤構想

ソフトウェア開発・運用の現場では、コード生成や OSS の追加・修正候補の提示、運用などの作業で、生成 AI の活用が急速に広がっています。

AI の活用により開発効率が向上する一方で、多数の OSS パッケージに依存する AI アプリケーションにおいては、末端の OSS に脆弱性が混入しただけでそれを読み込んだ AI システムに影響がおよびます。AI を企業・重要インフラに導入すればするほど、その OSS サプライチェーンのリスクが事業継続に関わる経営の根幹に直結します。

企業や組織における情報セキュリティ戦略の策定やリスク管理を統括し、サイバーセキュリティ対策に取り組む CISO には、AI 活用を推進する一方で「信頼できる AI 基盤の構築」が求められています。サイバートラストは、こうした CISO の抱える課題に応えるために、市場環境と国内外のガイドラインを踏まえて「重要インフラサプライチェーン向けトラスト基盤構想」を発表しました。

AI 時代の開発基盤に求められる AI 社会を信頼で支えるトラスト基盤

生成 AI の多くは、OSS フレームワーク(PyTorch、TensorFlow、Hugging Face など)上で構築されています。AI 時代には、ソフトウェアの開発・運用が高速化する一方で、利用する OSS、生成されるコード、適用される修正、運用上の判断について、継続的に説明できる状態を維持する必要があります。

日本の行政機関でも、ソフトウェアのサプライチェーンに潜む脅威に備えるために「SBOM 政策」を加速しています。

2025 年 9 月、経済産業省と内閣官房国家サイバー統括室は、米国 CISA など 15 か国と「SBOM の共有ビジョン」に署名しました。そして、防衛産業・医療機器・自動車・政府調達などの分野に、「SBOM 義務化の波」が押し寄せています。

そのため、多くの CISO は「SBOM を整備すれば対策は十分」と考えています。しかし、XZ Utils 事件(2024 年)が証明したように、最大の脅威は「SBOM というコードの成分表」では発見できません。そのコードは「誰が書いたのか」、「どの国の意思が入っているのか」といった地政学的なリスクまでを可視化しない限り、SBOM は「絵に描いた餅」になってしまいます。

SBOM は「部品表」であって「安全証明書」ではありません。サイバートラストの「重要インフラ サプライチェーン向け トラスト基盤構想」では、「SBOM に潜む脅威」を可視化し、透明性(プラットフォーム)と真正性(トラスト)により、AI 社会を信頼で支えるトラスト基盤を構築します。

「正規のコード」に潜んだ国家レベルの脅威 〜XZ Utils 事件の教訓〜

「SBOM がある=安全」ではない理由は、2024 年に発生した XZ Utils 事件が証明しています。XZ Utils 事件では、「正規のコード」に国家レベルの脅威アクターによる攻撃のためのバックドアが仕込まれていました。

国家的な支援も疑われる攻撃者は、2 年以上にわたりバーンアウト状態にあったオープンソースメンテナに接触していました。最初は「善意の貢献者」としてメンテナとしての信頼を積み重ね、徐々に開発に深く関与していきました。そして、最終的に Linux の SSH 接続を経由して侵入するバックドアを仕込みました。

このコードは、SBOM 上では「xz Utils 5.6.0」と正しく記載されています。そのため、SBOM を見ただけでは、そのコントリビューターが誰であり、どこの国の利害関係者なのかは一切わかりませんでした。たまたま、マイクロソフトのエンジニアが SSH 接続の遅延に気づきバックドアを発見しました。もしもその偶然がなければ、大規模なサイバー攻撃が発生していた可能性があります。

この事件では、コードの「成分」がわかっていても、「出どころ」と「意図」がわからなければ、真の安全性は担保できない、という脅威の本質が明確になりました。SBOM は必要条件ですが、安全性と信頼性を確保するためには十分ではないのです。

「SBOM 政策」で CISO に求められる「3 つの義務化シグナル」

AI 時代に CISO が取り組むべき「SBOM 運用」では、3 つの義務化シグナルが明確になっています。それは、防衛関連、医療関連、そして欧州サイバーレジリエンス法(EU CRA)になります。

① 防衛調達:最も厳格なサプライチェーン要件

防衛省は 2022 年改訂・2024 年ガイドライン拡充を経て、防衛産業企業のサプライチェーンセキュリティ要件に OSS 管理・SBOM 関連事項を組み込みました。防衛関連事業を持つ企業、あるいはそのサプライヤーに連なる企業にとって、SBOM はすでに事実上の必須要件となっています。

② 医療機器:薬機法改正で法的義務へ

厚生労働省による薬機法改正を受け、医療機器に組み込まれるソフトウェアの管理が義務化されました。SBOM 管理は医療機器メーカーにとって規制要件となり、米国食品医薬品局(FDA)が定める、食品、医薬品、医療機器、化粧品などの安全性や有効性を確保するための基準である FDA 規制や EU CRA への対応とも直結します。対応の遅れは輸出停止リスクを意味します。

③ EU CRA(欧州サイバーレジリエンス法):2027 年 12 月の最終期限

2024 年 12 月に施行された EU CRA は、2027 年 12 月以降、EU 市場で販売する「デジタル要素を持つ全製品」に SBOM の生成・保持を義務づけています。違反には最大 1,500万 ユーロまたは前年度売上高の 2.5 %という高額制裁が課されます。欧州事業を持つ日本企業は今すぐ対応ロードマップを描くべき局面にあります。

AI 時代のトラスト基盤構想で協業する Dark Sky Technology 社が SBOM の信頼性を可視化

「コードが公開されているから安全」という OSS の前提は崩れています。求められるのは、コンポーネントの可視化(SBOM)、脆弱性の継続監視、そして「誰が書いたか」まで含めた信頼の定量化と証明です。

日本においても、AI 基盤となる Linux 系 OS(AlmaLinux などの RHEL 互換ディストリビューション)や AI フレームワークのサプライチェーンリスクへの対応が急務となっています。

サイバートラストでは、米国 Dark Sky Technology 社(以下、Dark Sky)と協業し、重要インフラ・防衛関連システムに向けて、OSS の安全かつ継続的な運用を支援するために、セキュリティリスクを評価・可視化するサービスを提供していきます。Dark Sky は、米国安全基準に適合し、防衛、医療などの分野で数多くの導入実績を誇ります。

両社が協業するサービスでは、Dark Sky のソフトウェアサプライチェーンセキュリティプラットフォーム「Bulletproof Trust」と、サイバートラストが持つ Linux/OSS 長期保守、組込み Linux 開発、SBOM 運用、国内サポートの知見を組み合わせます。「Bulletproof Trust」は、SBOM 管理、OSS パッケージの健全性評価および依存関係のリスク評価、脅威インテリジェンス、監査証跡管理を支援します。

両社の協業の背景と意義については、第二部で紹介していきます。

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この記事の著者
田中 亘

IT 関連を中心としたライターとして独立し、約 35 年のキャリアを通して、オープンシステムやインターネットにクラウド・コンピューティングなど、最先端のテクノロジーや産業を中心に、取材と執筆に取り組んでいる。
また、1994 年に創刊した「できる Word」は、現在も最新刊を発行するベストセラーの入門書。