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EMLinux

2025 年 08 月 18 日

第 10 話:ISAR と EMLinux

はじめに

PC やサーバ向けの Linux の場合、各ディストリビューターから提供されているインストーラーを用いて PC やサーバに Linux をインストールします。

一方、組込み Linux では、OS の作成 (ビルド) からお客様自身で行う必要があります。その OS をビルドするための方法として、EMLinux は ISAR (Integration System for Automated Root filesystem generation) を採用しています。

本記事では ISAR について、そして ISAR と EMLinux の違いについて説明します。

ISAR とは何か?

従来、組込み Linux として、ソースコードからビルドするディストリビューションが用いられてきました。このようなディストリビューションを、ソースディストリビューションと呼びます。ソースディストリビューションとして有名なのが Yocto Project です。ソースディストリビューションはカスタマイズ性が高いことが長所です。しかしその反面、ソースコードからのビルドを行うため、OS のビルドに数時間程度の時間を要します。また、脆弱性が見つかった場合、利用者自身でソースコードのメンテナンスを行う必要があるため、メンテナンスコストが高いという短所があります(ただし、最近は Yocto Project にも 4 年ほどのメンテナンスが行われる LTS バージョンがあります)。

この短所を補うために、一般的な Linux であるバイナリディストリビューションを併用する方式が考え出されました。純粋なソースディストリビューションとは異なり、バイナリディストリビューションを併用する方式ではソースコードからビルド済みのバイナリをターゲット用の rootfs に直接インストールする方法を採用しています。また、バイナリについては各ディストリビューションにおいてメンテナンスが行われているため、脆弱性に対する利用者のメンテナンスコストを下げることができます。

このように、ソースディストリビューションの短所をバイナリディストリビューションの長所で補うために生み出されたのが ISAR になります。

バイナリディストリビューションには Debian、Ubuntu、Red Hat Enterprise Linux (RHEL)、SUSE Linux Enterprise Server (SLES) などがあります。その中で成熟度、品質、対応する CPU の多さなどを鑑みた結果、Debian が ISAR で併用されるバイナリディストリビューションとして採用されています。

参考資料: Open Source Summit Japan 2019
Building Products with Debian and Isar - Jan Kiszka, Siemens AG & Baurzhan Ismagulov, Ilbers GmbH

ISAR と EMLinux の違い

近年、組込み Linux に求められる要求が多様化してきており、様々な要求に応えるため豊富な OSS と組込み向け CPU のバイナリパッケージを提供している Debian ベースの ISAR を、EMLinux 3.x では採用しています。

では、ISAR と EMLinux の違いは何でしょうか?

ISAR で OS のビルドを行うと、

ユーザ空間 ※1: Debian Packages
カーネル空間 ※2: Linux kernel の Longterm stable kernel

で構成された OS が作成されます。

※1
ユーザ空間: 一般的なソフトウェア (例えば Firefox など) が動作する領域です。
※2
カーネル空間: ハードウェアを制御するドライバ (例えばプリンタドライバなど) が動作する領域です。

一方、EMLinux では ISAR のビルドシステムを活用し、EMLinux 独自のカスタマイズを加えています。

1. CIP kernel の採用

EMLinux では CIP kernel を利用しています。CIP (Civil Infrastructure Platform) は、社会インフラ用途の組込みシステムを長期間保守することを目指した OSS コミュニティです。例えば、Kernel 6.1 の場合、2027 年 12 月までのサポートとなっていますが、CIP kernel では 2033 年 8 月までのサポートとなっています。

産業機器では 10 年もしくはそれ以上の利用を想定されているお客様が多く、その要望にお応えするために EMLinux では CIP kernel を採用しています。

なお、サイバートラストも CIP に参加しており、超長期サポートの kernel を提供し続けるため CIP への貢献を行っています。

2. 各種ターゲットボードへの対応

ISAR で動作確認済みの環境はこちらに記載されています。QEMU や Raspberry Pi などには対応していますが、商用で用いられるようなボードには対応していません。

一方、EMLinux では、NXP Semiconductors のボードを中心に各種ボードへの対応を行うため、CIP kernel のカスタマイズを行っています。またカスタマイズされた CIP kernel のサポートも行っています。

なお、上記に記載が無いボードについても、受託開発にて対応することも可能です

3. パッケージセットと脆弱性検査機能

お客様が Linux の利用に必要となる基本的なパッケージ群として、CUI ベースの emlinux-image-base、GUI ベースの emlinux-image-weston を提供しています。

また、emlinux-image-base よりも小さな OS イメージ (フットプリント) を作るための emlinux-image-compact、Qt Multimedia 5 に対応した emlinux-image-qt5 も提供しています。

さらに、以前のブログでもご紹介いたしましたように、脆弱性検査機能を備えており EMLinux で利用する CIP kernel および Debian パッケージの脆弱性を容易に調べることが可能です。

さいごに

本記事では ISAR について、そして ISAR と EMLinux の違いについて解説しました。

組込み Linux に用いられてきたソースディストリビューションの短所を補うために、バイナリディストリビューションを併用した ISAR が作られました。

また、その ISAR に商用 Linux として必要となる機能を付加したものが EMLinux になります。

ソースディストリビューションとバイナリディストリビューションの長所を組み合わせた利便性を、ぜひ EMLinux の評価版で体験してみてください。

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