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WEB IR REPORT WEB株主通信2026年3月期

トップインタビュー

TOP INTERVIEW

AI・量子コンピューティング時代の
"信頼"を支える
デジタル社会インフラ企業へ

代表取締役社長 兼 CEO
北村 裕司

主要なサービスであるトラストサービスとプラットフォームサービスの成長により、業績は好調に推移。DXの進展とともにデジタル社会のインフラとしての地位を固めつつあるサイバートラストが、さらなる高みを目指して中長期の成長戦略を掲げる。

"デジタルトラスト"で社会の信頼を支える

当社は「デジタルトラスト事業」を展開しています。「セキュリティ」はよく聞いたことがあると思いますが、「デジタルトラスト」という言葉の認知度はまだそれほど高くないと思います。「デジタルトラスト」とは、さまざまなヒトやモノがネットワークにつながり、あらゆるプロセスがデジタル化される社会において「ヒト」「モノ」「コト」の正当性・完全性・真正性などを証明し、デジタル社会の信頼を支えるサービスです。例えば、「本人であること」を証明する本人確認や、機器同士が安全につながるための認証技術なども「デジタルトラスト」の一例です。
DX(デジタルトランスフォーメーション)が進展する中で、当社サービスの重要性は年々高まっています。さらに現在は、AIの急速な進化に加え、将来的には量子コンピューティングの実用化も見据えられる時代に入りました。今後、デジタル技術が社会全体へさらに浸透していく中で、当社の価値を提供できる領域は大きく広がっていくと考えています。
当社は、こうした変化を先取りし、「デジタル社会の信頼を支えるインフラ企業」へと、さらなる進化を遂げてまいります。

社会インフラと聞くと、電気やガス、通信などをイメージされると思います。これらは止まってしまうと社会が機能しなくなる重要なインフラです。そして、それを支える企業は重い責任を担うに足る長期的かつ安定的な事業基盤を有しています。
当社が提供するトラストサービスやプラットフォームサービスも、デジタル社会においてインフラとなる重要な役割を担うものと考えています。AI、IoT、量子技術などのデジタル技術が社会実装され、社会のデジタル化が高度化するほど、なりすましやフェイクなどが巧妙となり、社会に負の影響を与える可能性も高まります。そのような課題を解決するために「ヒトやモノの本人性・実在性」、「データの真正性」、「システムの信頼性・安全性」がますます重要になります。このようなデジタル社会の"信頼"を支えることが、当社の役割です。現在のデジタル社会は、まだ初期段階にあると認識しています。今後さらにデジタル化が進展することで、当社が担う役割が大きくなるとともに、提供する価値とその市場も大きく拡大していくと考えています。

新たな3つの成長領域

  • 2026年3月期の決算説明において、中長期の成長イメージとして新たな成長領域を提示させていただきました。「新規事業」「グローバル」「M&A」の3つです。
    当社としては、現在提供している価値が完成形だとは考えていません。社会や技術の変化に応じて、当社に不足している技術や機能についても、新規事業開発やパートナー連携を通じて積極的に取り込んでいきたいと考えています。
    具体的な領域についてご説明しますと、例えば、国が掲げる「日本成長戦略」では、17の戦略分野に重点投資することを決めています。その17分野の中でAI・半導体、デジタル・サイバーセキュリティ、量子技術の3分野が当社の戦略的成長領域と合致します。

AI分野ではAIの識別や認証、データの信頼性をどのように高めていくか。デジタル・サイバーセキュリティ分野では、国や業界、企業の壁を越えて安全にデータを連携するための「データスペース」や「データ連携基盤」といわれる新しいデータプラットフォームを想定した流通データの信頼性とセキュリティをどのように高めていくか。そして量子技術分野については、計算能力が飛躍的に向上し、新たな暗号技術が求められる本格的な量子コンピューティング時代を見据えて、その時代をリードすべく次世代の認証基盤やサービス基盤をいかに早く実現できるか、ということがポイントになります。
AI分野では、その信頼性とともにセキュリティを高めるために、AIエージェントの識別と認証が非常に重要になります。当社はこの領域において、長年にわたり日本国内で自社の電子認証センターで電子認証局を運営し、数多くのユーザーやデバイスに電子証明書を発行してきた実績があります。今後、人間に代わってAIエージェントがさまざまな処理を行う上で、1つのAIエージェントで完結することは考えにくく、複数のAIエージェントが協調して処理を進めることになると考えられます。その時、どのAIエージェントがどのような経路で処理をし、最終的なアウトプット(導き出された結果・データ)になったのかを確認できることが重要になります。フィジカルAIやヒューマノイドなども含めたAIを識別してIDを付与し、認証することでトレース(履歴を追跡)できることが管理する上で重要になるでしょう。このように専門性の高い電子認証(またはトラストサービス)の分野は参入障壁が非常に高く、新規参入企業が短期間で構築できるものではありません。当社のように30年にわたる歴史の中で実績を積み重ね、信頼を築いてきた企業が磨き抜いた価値を新たな社会課題を解決するために革新・拡張することによって、初めて可能になります。

"社会実装"で長く使われ続けるサービスを開発していく

一般的な業務アプリケーションとは異なり、インフラの中でも専門性が高い領域は、当社のような長年のノウハウや運用実績を有する企業が優位性を発揮できる市場だと考えています。
当社が提供するインフラ領域では、インターオペラビリティ(相互運用性)が重要となるほか、法制度や業界標準との整合性が求められます。そのため、サービス立ち上げまでには一定の時間と先行投資が必要になります。投資回収まで長い期間を要する一方で、一度社会実装されると長期にわたり利用され続けるという特徴があります。
新規事業として取り組んでいる量子技術分野についても、2030年頃を見据えながら、すでに数年前から準備を進めています。
インフラ領域は立ち上がりまで時間を要しますが、その分、市場拡大のタイミングと合致した際の成長力は非常に大きいと考えています。当社の高成長牽引サービスであるiTrustは、まさに先行投資と長年の事業環境整備の成果であり、成功事例です。

アジアを中心に海外展開も加速

当社が提供する価値は、日本国内にとどまらず、海外市場にも展開できると考えています。
例えば現在、スマートホーム市場の拡大が進んでいますが、その安全な利活用のためには各家電製品がメーカーを問わず安全にホームネットワークに接続し、利用できる共通の規格が不可欠です。そして、ホームネットワークの通信と認証に関する国際的な標準規格として「Matter(マター)」があります。Matter対応の家電関連製品の製造は、台湾をはじめとしたアジア企業が強みを持っており、当社も台湾企業と協業しながら、家電製品向け認証サービスを展開しています。また、エンタープライズ分野においても、アジア各国で機器認証ニーズは高まっています。今後はこうした領域においても事業成長のポテンシャルがあると考えています。

M&Aで"デジタルトラスト"領域を拡張

これらの戦略を実現していく上で、M&Aによるポートフォリオ拡充は重要な成長戦略の1つだと考えています。当社のM&A戦略には、大きく2つの方向性があります。
1つ目は、デジタル社会のインフラ企業として当社がカバーすべき領域の拡張です。トラストサービスやプラットフォームサービスの領域において、現時点で当社が手掛けていないサービスや技術について、M&Aを活用しながらポートフォリオを強化していきたいと考えています。
2つ目は、既存事業の枠を超えて、将来的に重要なインフラとなり得る領域への挑戦です。当社と価値観や方向性を共有できるパートナー企業とともに、新たな事業を立ち上げていくことも視野に入れています。

当社は、社会に必要とされ続ける「デジタルトラスト」のリーディングカンパニーでありたいと考えています。AIや量子技術など、デジタル社会は今後さらに大きく変化していきます。その中で、「信頼できること」の重要性は、これまで以上に高まっていくと確信しています。デジタル社会を支えるインフラ企業として10年後、20年後のデジタル社会を見据えながら、持続的な企業価値向上に取り組んでまいります。
株主の皆さまには、ぜひ長期的な視点で当社の成長を見守っていただければと思います。

中長期的な事業領域の拡大と成長

トピックス

デジタル社会の進展とともに
活用領域が広がるiTrust
今後もシェアを拡大していくと確信する理由とは

サイバートラストが提供する、トラストサービスの電子認証基盤であるiTrustは、2018年の提供開始以来、各業界のリーディングカンパニーを中心に広く採用され、シェアを伸ばし続けています。

iTrustのサービス内容や強み、導入事例も踏まえながら、今後の展望について紹介します。

取締役 トラストサービス事業 責任者
田村 光義

iTrustとはどのようなサービスですか?

iTrustは「デジタル社会の信頼を支えるサービス」です。

あらゆる手続きのデジタル化が進む中、オンライン上はもちろん、対面での手続きにおいても、デジタル技術を活用した厳格な手続きが求められるようになっています。そこで必要になるのが、デジタルの世界に実社会の「身分証」や「実印」と同等の信頼性を付与する仕組みです。iTrustは、これを法律に基づいた形で実現しています。

例えば、銀行の口座開設における本人確認。本人確認書類を簡単に偽造できる世の中において、なりすましなどの犯罪を防ぐためには、マイナンバーカードのICチップを読み取るなど"たしかに本人であること"を証明するための技術が必要です。また、コロナ禍で普及した電子契約。紙の契約書では印鑑が法的な根拠になりますが、電子契約では"本人の意思で合意したこと"を証明するための技術が必要です。

iTrustは、この法的な証明力を担うことで、厳格な本人確認と、電子契約の成立を支えています。

iTrustの売上が伸びているのは、どのような理由でしょうか?

DX、法規制、国策3つの追い風が同時に来ている

iTrustの売上成長は、大きく3つの要因に支えられています。
①DXの加速、②法規制対応ニーズの拡大、③国主導のデータ活用政策です。

まず1つ目のDXの加速です。2018年のサービス開始以降、DXの進展とともに導入は広がってきました。足元では単なるデジタル化にとどまらず、データそのものを活用する社会へと進化しています。その前提となる「データの信頼性」を担保する役割として、iTrustの重要性は一段と高まっています。

2つ目は法規制対応ニーズです。金融・通信分野を中心に本人確認の厳格化が進んでいます。例えばマネー・ロンダリング対策を目的とした「犯罪収益移転防止法」や、携帯電話契約時の本人確認を定めた「携帯電話不正利用防止法」などがあり、本人確認手法はマイナンバーカードを用いた公的個人認証へ原則一本化していきます。こうした法制度への対応手段としてiTrustが採用されています。法規制対応という必須のニーズが需要の急拡大を後押ししています。

3つ目は国が推進するデータ活用政策です。電子データの発行元を証明し、改ざんされていないことを担保する「eシール」の制度整備が進んでおり、2026年3月には総務大臣認定制度の申請受付も開始されています。また、経団連が「産業データスペースの構築」というテーマで国に対し提言を行っています。これは各企業、各産業が持っているデータを、より横断的に使うことによって新しい付加価値を生み出し、それを国の仕組みとする制度です。そこで一番重要になるのが、「そこで飛び交っているデータを本当に信じていいのか? 」ということです。そのデータが間違っていると、結論が間違ってしまいます。 データの信頼性を担保するための仕組みがeシールであり、我々がその認定を受けることによって、iTrustにはデータの信頼性を担保する基盤として、こうした国主導の取り組みの中核を支える役割が期待されています。

これらはいずれも一過性ではなく、中長期的に継続する構造的なトレンドであり、iTrustのさらなる成長を力強く牽引しています。

他社のサービスと比べて、iTrustの強みはどこにありますか?

最大の強みは、30年の実績が生む「真似できない信頼」

当社は、約30年にわたり商用の電子認証局を運用してきた実績にあります。電子認証局は、国際的な監査基準に基づく厳格な運用体制が求められ、継続的に各種監査をクリアしなければ維持できません。当社はこれを長年にわたり積み重ねてきました。その結果として蓄積された運用ノウハウや信頼性、ブランドは一朝一夕に構築できるものではありません。技術的には参入可能であっても、「信頼」が重視される領域であるがゆえに、実質的な参入障壁は高いと考えています。iTrustの強みと選ばれる理由もここにあります。

iTrustはどのような企業で採用されているのでしょうか?

金融からAIまで、"信頼が必要なすべての領域"へ

iTrustは、本人確認やデータの信頼性が求められるあらゆる領域で活用が進んでいます。代表的なのは金融分野です。マネー・ロンダリング対策を目的とした「犯罪収益移転防止法」への対応など、厳格な本人確認が求められる場面で採用が広がっています。加えて、近年は証書類のデジタル化ニーズの高まりを背景に、学習歴証明書や製造業における品質証明書など、「改ざんされていないこと」の検知のための用途でも導入が進んでいます。さらに今後の成長領域として期待しているのが、メディアや生成AI分野です。画像や映像の偽造が容易になる中で、「そのデータが本物であるか」を証明するニーズが高まっており、iTrustはその分野でも活用されています。現在はPoC(概念的な実証)段階の案件も多いものの、事例は着実に増加しており、将来の成長ドライバーになると考えています。

こうした幅広い分野で採用が進んでいる背景には、長年にわたり培ってきた信頼に加え、「中立性」を重視した運営があります。例えば、現在、ソフトバンク様、KDDI様、NTTドコモ様との取引もあります。特定の企業グループに依存しない立場を保つことで、通信キャリアをはじめとする各業界のリーディングカンパニーからも安心して採用いただいています。

iTrustの今後の展開を教えてください

AI時代とデータ流通時代、その両方で伸びる

今後の成長ドライバーは大きく2つ、「AIへの対応」と「データ流通の拡大」です。まず「AIへの対応」です。人を介さないデータのやり取りが増える中で、相手のAIエージェントやAI生成データそのものが信頼できるかどうかが重要になります。iTrustはその信頼性を担保するたしかな仕組みとして、活用領域の拡大が期待されます。

次に「データ流通の拡大」です。2019年、世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)において、 DFFT(Data Free Flow with Trust:信頼性のある自由なデータ流通)という概念が国際的に打ち出されました。国際間でデータを流通させていくことによって、世界中をより豊かなデジタル社会にしていく構想です。 その中において、流通するデータの信頼性は必要不可欠なものと国際的に提言されています。本件については、現在、デジタル庁を中心に実現に向けて動いている状況です。DFFTが求める高度なデータの信頼性に対しても、私たちがiTrustで提供しているサービスがご利用頂けますので、もう一つの事業成長の柱になると考えています。当社は、その社会の実現に向け総務省、デジタル庁の関係部門の方とは定期的に意見交換を行っています。

我々の強みは「このデータは本当に白です(信頼できる)」と言い切れることになります。そのため、データの量が増えれば増えるほど、安心安全にデータを使いたいというニーズも増加しますので、我々の技術が使われる頻度が多くなります。 iTrustをより多く活用していただくためには、我々単独よりも、さまざまなパートナー企業様との連携が必要になります。例えば、電子署名については電子契約のサービスは国内に何社かありますが、それらのほとんどにiTrustが使われています。今後、マイナンバーカードのICチップ読み取り必須化など本人確認の厳格化が進む中で、さらにこの割合は拡大するものと考えています。

このようにiTrustはパートナー企業様のサービスに「信頼を担保する仕組み」として組み込まれ、さまざまなデジタル取引の前提となる「トラスト基盤」として機能しています。社会のデジタル化とともに、その存在感はさらに高まっています。