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2026 年 07 月 13 日

「フロンティア AI」が大量の脆弱性を見つける時代に ― いま、私たちにできる備えは「基本」にある

AI は、便利な道具であり、強力な武器でもある

ここ数年で、AI は文章を書き、絵を描き、プログラムのバグを直すところまで進化しました。とても便利ですが、同じ力は、裏を返せば「攻撃する側」にも使えてしまいます。

とりわけ最近注目されているのが、従来の生成 AI の進化により、高度な推論力と問題解決能力など世界最高水準の能力・性能を持つ最先端の大規模 AI モデルである「フロンティア AIがソフトウェアの「弱点 = 脆弱性」を見つける能力です。これまで熟練の専門家が何日もかけて探していたようなソフトウェアの脆弱性を、フロンティア AI は短時間で、しかも大量に見つけられるようになりつつあります。実際に、世界中で使われているソフトウェアを調べさせたところ、これまで何十年も気づかれなかった不具合が見つかった、という報告も出ています。

AI は、防御に使えば「早く直せる」心強い味方になる一方で、悪用されれば「速く・大量に攻められる」脅威にもなります。まさに両刃の剣なのです。

何が変わったのか ―「点」の問題から「面」の問題へ

これまでのサイバー攻撃対策は、「重大な弱点(脆弱性)が 1 つ見つかったら、そこを塞ぐ」という一点ずつの対応が基本でした。

ところがフロンティア AI によって、脆弱性が一度にたくさん見つかるようになると、話が変わります。直すべき箇所が同時多発的に現れ、しかも「見つかってから攻撃されるまでの時間」もどんどん短くなる。もはや自分の会社のシステムだけの問題ではなく、世の中で使われているソフトウェア全体、たとえばオープンソースで広く使われているオペレーティングシステム(OS)、ミドルウェアやアプリケーションなど、取引先が提供するサービスまで含めた「面」の問題になっているのです。

フロンティア AI の脅威に慌てなくていい ― でも、油断もできない

ここで大事なのは、過度に怖がる必要はないということです。各国の AI 安全性を評価する専門機関の検証では、「きちんと守られているシステムは、今のところフロンティア AI でも簡単には破れない」と報告されています。

つまり、魔法のような特効薬が必要なわけではありません。基本的な対策を適切に実施している組織ほど、この新しい脅威にも強い。逆に言えば、基本がおろそかなところが真っ先に狙われます。日本の金融庁も、こうした変化を踏まえて「まずは基本対策を、これまで以上に速く・確実に」と呼びかけています。

家の防犯にたとえるなら、最新の高性能な泥棒が現れたからといって、いきなり要塞を建てる必要はありません。まずは鍵をかける・窓を閉める・古い錠前を新しくする。当たり前のことを、当たり前に、そして少し急いでやる。それが一番効きます。

フロンティア AI による脅威対策として企業がやるべきこと ―「基本に忠実」な 5 つの備え

特別なことではありません。昔から言われている脆弱性対策を、いま一度、確実に回すことです。

1. 自分たちが「何を使っているか」を把握する

どのシステムに、どんなソフトウェアが、どのバージョンで使われているのか。これを把握していないと脆弱性が公表されても「自分たちに影響があるのか」を判断できません。棚卸しを済ませ、いざというとき即座に対象範囲を特定できる状態にしておきましょう。近年は、ソフトウェアの部品表 (SBOM) を使ってこれを機械的に管理する動きが広がっています。ただし SBOM は作ること自体が目的ではなく、SBOM を使って攻撃者に悪用されるリスクの高い脆弱性を追う「運用」を回すことが目的です。

2. サポートが切れた製品をなくす

メーカーのサポートが終わった製品には、そもそも修正プログラム ( パッチ ) が提供されません。「直したくても直せない」状態は、最大の弱点になります。使い続けている古い機器やソフトは、計画的に新しいものへ更新しておきましょう。

3. パッチを、優先順位をつけて速く当てる

脆弱性が大量に出ると、すべてに一度で対応するのは困難です。だからこそ、「実際に攻撃に使われているか」「自社にとってどれだけ危険か」を見極め、リスクの高いものから確実に対応する。危険度を示すスコアだけに頼らず、現実の攻撃状況も踏まえて優先順位をつけるのがコツです。

4. 「一枚の壁」に頼らない ( 多層防御 )

パッチがすぐ当てられない場合に備え、守りを何重にもしておきます。多要素認証 ( パスワード+デバイス証明書など ) による認証強化、不審な動きを検知する仕組み、通信を守る防御機能、そしてバックアップ。どれか一つが破られても、次で止められるようにしておくことが大切です。

5. 「止まる前提」で備え、一人で抱えない

どれだけ守っても、事故はゼロにできません。万一システムが止まったときにどう業務を続けるか ( 事業継続計画 ) を用意しておきましょう。そして、脆弱性の情報は自社だけで追い切れません。業界団体やコミュニティ、専門機関と情報を共有し、助け合うことが、結局は一番の近道になります。

「AI には AI で」― 守る側もアップデートを

攻撃側が AI で加速するなら、守る側も AI を活用できます。弱点(脆弱性)の発見や影響の分析、対応の優先順位づけを AI が助けてくれれば、人手だけの「消耗戦」から抜け出せます。海外では、AI が脆弱性を見つけるだけでなく修正案まで自動で作る実証も進んでいます。

ただし、AI の判断を鵜呑みにするのは禁物です。最後は人が確認し、なぜその対応をするのかを説明できる状態を保つことが大切です。技術を過信せず、しかし臆せず活かす。このバランスが、これからの守りには欠かせません。

おわりに ― 特別な魔法より、確実な基本を

フロンティア AI は、私たちの世界を大きく変えつつあります。サイバーセキュリティの世界でも、脅威のスピードと規模は確かに上がっています。

けれども、やるべきことの本質は変わりません。自分たちが何を使っているかを知り、古いものを直し、危ないものから塞ぎ、守りを重ね、いざというときに備え、仲間と助け合う。この「基本」を、少しだけ急いで、確実にやり続けること。それが、新しい時代にもっとも必要な備えです。

今日、あなたの組織の「鍵」は、きちんとかかっているでしょうか。まずはそこから、点検を始めてみてください。

本記事は、フロンティア AI によるサイバーセキュリティ上の変化を、一般の読者向けにわかりやすく解説したものです。個別のシステムへの対応は、それぞれのリスクや環境に応じて専門家とご検討ください。

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この記事の著者
 著者近影:岸田 茂晴
岸田 茂晴(きしだ しげはる)

サイバートラスト株式会社 グローバル事業推進本部 本部長 米サンダーバード国際経営大学院(現アリゾナ州立大学サンダーバード国際経営大学院)を修了。大学院時代から技術開発政策を専攻し、在学中に Beta Gamma Sigma 会員、Pi Sigma Alpha を受賞。サイバートラスト入社後は、組込み OS 事業とトラストサービス事業を横断的に担当し、IEC 62443 対応支援の EMLinux サービス開発やセキュア IoT プラットフォーム事業開発の責任者を歴任。 現在は SSDF(セキュアソフトウェア開発フレームワーク)や C-SCRM(サイバーサプライチェーンリスクマネジメント)を軸に政策評価と商材開発を推進するほか、CSA 代表主査として JC-STAR ★2 の技術策定主査を務める。政策分析とソリューション開発を通じて、国際的に通用する商材開発に取り組んでいる。

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