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犯収法改正によって対面 KYC はどう変わる?IC チップ読み取り原則化の要点と実務対応

はじめに

2025 年 12 月5日、「犯罪による収益の移転防止に関する法律(以下、犯収法)」の施行規則改正に伴うパブリックコメントの募集が開始されました。本改正案では、対面取引における本人確認の方法が見直され、2027 年 4 月 1 日以降、本人確認書類の IC チップ情報を読み取ることが、原則的な確認方法として位置付けられています。
今回は、パブリックコメント資料や条文案をもとに、法改正のポイントや、特定事業者が今から準備すべき実務対応について整理します。今後の対応検討や情報収集の一助としていただければ幸いです。

※本記事は 2025 年 12 月時点で公表されている改正案に基づくものであり、最終的な内容は今後変更される可能性があります。

2025 年 12 月改正案における対面での本人確認厳格化のポイント

今回の改正案では、対面での本人確認について、本人確認書類を「顔写真の有無」「IC チップの有無」の観点で整理し、それぞれに応じた確認方法が定められています。

1.IC チップ有り・顔写真有りの本人確認書類

IC チップが組み込まれ、かつ氏名・住所・生年月日・顔写真が記録されている顔写真付き本人確認書類(例:マイナンバーカード、運転免許証、在留カード、特別永住者証明書)については、

  • 本人確認書類の提示を受けたうえで、IC チップの情報を読み取って、その内容を画面表示させること

が要件として求められるようになります。

現状は、券面の目視確認のみでも一定の要件の下で本人確認が可能となっていましたが、本改正によって、今後は IC チップ情報の読み取りを行うことが前提となります。券面偽造への対応力を高めつつ、IC チップに格納された情報を活用した厳格な本人確認が求められるようになります。

2.IC チップ無し・顔写真有り本人確認書類

IC チップが組み込まれていない顔写真付き本人確認書類(例:身体障害者手帳)については、

  • 本人確認書類の提示を受けたうえで、別途、取引関係文書(口座開設通知など)を、記載住所宛てに転送不要郵便物等として送付すること

が求められます。

IC チップによる確認が行えない分、転送不要郵便によって、申告住所に実際に居住しているかを補完的に検証する考えとなります。

3.IC チップ有り・顔写真無し本人確認書類

16 歳未満の在留カードなど、IC チップは組み込まれているものの顔写真が記録されていない本人確認書類については、

  • 本人確認書類の提示を受けたうえで、IC チップの情報の読み取ってその内容を画面表示させ、別途、取引関係文書を転送不要郵便物等として送付すること

が求められます。
顔写真の確認が行えないことから、IC チップ情報と転送不要郵便を組み合わせることで、なりすましリスクを抑制する設計になっています。

4.IC チップ無し・顔写真無し本人確認書類

IC チップも顔写真も無い本人確認書類については、偽造・改ざん対策が施されている(例:住民票の写しなど)に限り利用が認められており、その際の確認方法としては、

  • 本人確認書類の提示を受けたうえで、別途、取引関係文書を転送不要郵便物等として送付すること

が求められます。

こちらの書類は取得に手間がかかりやすく、ユーザにとってのハードルが高くなりがちです。現実的には、他区分の書類での確認を基本とし、当該書類を用意できないケースで補完的に使われる運用となることが予想されます。

非居住外国人等に対する例外的な取扱い
上記方法のいずれも実施困難な非居住外国人については、現行どおり、顔写真付き本人確認書類の提示を受ける方法を存置する取扱いとされています。

以下は、今回の改正前後における本人確認方法の違いを整理した表となります。

改正前 改正後(2027.4.1~)
規定 内容 規定 内容
顔写真付き本人確認書類の提示 IC チップ付き & 顔写真付き本人確認書類の提示 + IC チップ読み取り
顔写真無し本人確認書類の提示 + 転送不要郵便 以下 (1)(2) のいずれか + 転送不要郵便
(1)「IC チップ無し & 顔写真付き本人確認書類」または「IC チップ無し & 顔写真無し本人確認書類」の提示
(2) IC チップ付き & 顔写真無し本人確認書類の提示 + IC チップ読み取り
・顔写真無し本人確認書類 2 つの提示
・顔写真無し本人確認書類の提示 + 異なる本人確認書類または現住所記載のある補完書類の提示
  削除
顔写真無し本人確認書類の提示 + 異なる本人確認書類または現住所記載のある補完書類 ( または写し ) の送付   削除
ホ~リの 5 つについては内容の大きな変更なし ハ~トの 5 つについては内容の大きな変更なし
本人限定受取郵便。なお受取時には (1)(2) のいずれかを実施
(1) 顔写真無し本人確認書類の提示
(2) カード代替電磁的記録の送信
本人限定受取郵便。なお受取時には (1)(2) のいずれかを実施
(1) IC チップ付き & 顔写真付き本人確認書類の提示 + IC チップ読み取り
(2) カード代替電磁的記録の送信
ル~ワの 3 つについては内容の大きな変更なし リ~ヌの 3 つについては内容の大きな変更なし
   
(新設)
短期在留外国人向けのみ
顔写真付き本人確認書類の提示
カ~ヨの 2 つについては内容の大きな変更なし ワ~カの 2 つについては内容の大きな変更なし

表 1:犯収法改正前後における、本人確認手法の比較

事業者が今から準備すべき実務対応

今回の改正は、2027 年 4 月 1 日の施行が予定されています。当社ブログ「犯収法改正で「IC チップ読み取り」の流れが加速、早期対応がカギ」でも過去お伝えしました通り、このタイミングでは、非対面取引における本人確認の厳格化(本人確認書類の画像撮影方式の廃止等)も同時に進みます。

特定事業者においては、対面・非対面の両方を見据えた一体的な見直しが必要であり、システム・業務の両面での準備が避けられません。ここでは、まず押さえておきたい代表的な検討項目を整理します。

1.現行の本人確認プロセスの棚卸し

  • どの窓口・チャネル(店頭、営業担当訪問、代理店窓口など)で対面本人確認を行っているかの確認
  • 現時点でどの本人確認書類を利用していて、今後どの本人確認書類を対象とするのかの再整理

2.IC チップ読み取り環境(端末・システム)の整備

  • IC カードリーダーや NFC 対応スマートデバイスの導入・配置計画
  • 基幹システム等との連携方式の検討(IC チップ情報の連携や保存範囲等)

3.本人確認書類の取扱いルールの見直し

IC チップ有り・顔写真有り書類を原則とする一方で、IC チップ無し書類や顔写真無し書類、非居住外国人等に対する例外的取扱いをどのように運用するかを社内ルールとして明文化する必要があります。特に、転送不要郵便の送付を要するケースでは、発送フローや到着確認の方法、返戻時の対応等まで細かく定めることが重要です。

今回の法改正により、 読み取り端末の調達・配備、システム連携等の準備を整える必要が出てきますが、2027 年 4 月 1 日までにそれら全てを完了させるにあたっては、技術対応に先行し、必要な費用を見積もり、予算を早期に確保しておくことも実務上の重要ポイントとなります。

さいごに

今回の犯収法の改正案では、対面での本人確認において IC チップ読み取りを原則とすることで、なりすましや偽造書類による不正取引への対応を一段と強化する方向性が示されました。一方で、IC チップなしの書類や非居住外国人等への例外規定も設けられており、事業者には「原則と例外」を踏まえた細かな運用設計が求められます。

施行予定日は 2027 年 4 月 1 日と、いまから見ると一定の準備期間が設けられていますが、本人確認は、法令遵守や犯罪対策の要となる業務であり、システム改修や業務プロセスの見直しには時間を要します。パブリックコメントや今後公表されるガイドライン等も注視しつつ、早期に現状把握と対応方針の検討を進めていくことが重要です。

2027 年 4 月 1 日からは、非対面取引の本人確認も厳格化が進む見込みであり、確実な本人確認手法への移行が求められます。詳細については「犯収法改正で「IC チップ読み取り」の流れが加速、早期対応がカギ」もあわせてご参考にしてください。

サイバートラストの iTrust 本人確認サービスは、犯収法をはじめ関連する本人確認要件の変化を見据えて、運用・システム両面で対応できるサービスとして提供しています。
スマホ JPKI、基本 4 情報取得、マイナ免許証の読み取りなど、制度変更や行政施策にも継続的に追随し、必要なアップデートを迅速に提供し続けます。IC チップ読み取りの対応方針や移行計画の検討が必要な場合は、ぜひお問い合わせフォームよりご相談ください。

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