2026 年 1 月 23 日に開催された「AlmaLinux Day Tokyo 2026」では、AlmaLinux OS Foundation の Lead Architect、Andrew Lukoshko 氏が「ALESCo, corporate contribution, and the way forward」と題して講演した。
講演では、AlmaLinux が単なる RHEL 互換 OS ではなく、ユーザーや企業からの要望を取り込みながら独自の機能を追加していること、そしてその判断を担う ALESCo(AlmaLinux Engineering Steering Committee)の役割について紹介した。
「RHEL 互換」だけではない AlmaLinux
AlmaLinux は 2020 年末、CentOS Linux の代替を目指してスタートした。しかし Lukoshko 氏は、プロジェクトを進める中で「単なる CentOS Linux の置き換え以上のことができる」と分かってきたと説明する。
その一つが、RHEL との API 互換性を維持しながら、AlmaLinux 側で追加の修正を行えることだ。Red Hat から提供されるバグ修正やセキュリティ修正を取り込むだけでなく、場合によっては AlmaLinux 独自の修正を先行して提供することもあるという。
また、RHEL でサポート対象から外されたハードウェアやソフトウェア機能についても、動作可能であれば AlmaLinux 側で再び利用できるようにしている。
リリースの速さも特徴だ。Lukoshko 氏によれば、AlmaLinux ではマイナーリリースを最大 6 日程度、メジャーリリースでも最大 2 週間程度で提供できるとしている。さらに、セキュリティ情報を提供し、DNF によるセキュリティ修正のみの適用や、OVAL、OpenSCAP といったセキュリティ関連機能も利用できる。
「失われた機能」を取り戻す
講演で具体例として紹介されたのが、レガシーハードウェアやソフトウェアへの対応だ。
例えば、RHEL 9 で削除された SPICE プロトコルを AlmaLinux では再び利用できるようにした。仮想デスクトップ基盤などで利用されてきた技術であり、Fedora では引き続き利用できることから、AlmaLinux にも取り込んだという。
IBM PowerPC 向け KVM 仮想化のサポートや、AlmaLinux 10 での古い CPU への対応、さらにアプリケーションのデバッグやプロファイリングに役立つ frame pointers も追加した。ストレージやネットワーク機器についても、RHEL では「legacy」として扱われるものを再び利用可能にする取り組みを進めている。
こうした対応は、単なる懐古的な互換性維持ではない。例えばインストーラーがストレージデバイスを認識できなければ、そもそも OS を導入できない。企業が既存設備を長期間利用するエンタープライズ環境では、こうした「古いが、まだ使える」ハードウェアへの対応が実用上重要になる。
技術判断を「一人で決めない」ALESCo
こうした AlmaLinux 独自の判断を担うのが ALESCo だ。
Lukoshko 氏によれば、2024 年 5 月までは技術的な判断を自身が一人で行っていた。しかし、1 人の判断では視点が偏る可能性がある。そこで複数のメンバーによる組織としてALESCo を設け、OS の方向性やリリース管理、SIG の支援などを担うようになった。
ALESCo では、意思決定の透明性と長期的な安定性を重視している。会議には誰でも参加でき、議論の内容も公開される。実際、NVIDIA のオープンソースドライバ、GNOME のワークスペースインジケーター、追加カーネル、EPEL リポジトリのデフォルト有効化など、ユーザーに直接関係する判断が行われている。
象徴的なのが Btrfs 対応だ。Meta から RFC として提案され、約 1 カ月の議論を経て 2025 年 6 月に承認。その 8 日後にはインストーラーで Btrfs を利用できる AlmaLinux 10 のイメージが公開され、その後のテストを経て同年 11 月に正式版がリリースされた。
企業はAlmaLinuxを「土台」として使える
講演後半では、AlmaLinux をベースに独自製品を開発する企業についても紹介された。その代表例が CloudLinux だ。以前は RHEL をベースに大量のパッケージを自社で再構築していたが、AlmaLinux 登場後は AlmaLinux を基盤として利用することで、自社独自の機能やパッケージに開発リソースを集中できるようになったという。
CloudLinux 10 では、AlmaLinux のカーネルや Secure Boot 基盤も活用し、AlmaLinux に対する追加パッケージを提供する形へと近づいている。Lukoshko 氏は、AlmaLinux をベースにすることで、企業が「OS そのものを作る」作業から解放され、自社製品の付加価値に集中できる点を強調した。
さらに、企業独自のパッチを AlmaLinux へ提案したり、上流プロジェクトへ変更を戻したりすることも可能だ。Secure Boot で利用するカーネルモジュールについても、条件を満たせば AlmaLinux 側でビルド・署名する仕組みを用意している。
まとめ――「互換性」を守りながら、ユーザーのために変えていく
この講演で示された AlmaLinux の特徴は、「RHEL と互換であること」と「ユーザーのために独自の判断をすること」を両立させている点にある。
RHEL との ABI 互換性を維持しながら、サポートから外れたハードウェアを復活させ、必要な機能を追加する。そして、その判断を一企業や一個人に任せず、ALESCo による公開された議論を通じて決めていく。
さらに企業にとっては、AlmaLinux そのものを製品の土台として利用し、自社独自の機能開発に集中できる。
「互換 OS だから RHEL と同じ」ではなく、互換性を維持した上で、コミュニティと企業の要求を取り込んでいく――。 Lukoshko 氏の講演は、AlmaLinux が目指す「その先」の姿を、具体的な技術事例とともに示すものだった。





