2026 年 05 月 20 日
KernelCI プロジェクト速報 - 2025 年 Q4 の更新情報
この記事でわかること:
Linux カーネルの品質を支える KernelCI の最新アップデートと、その背景にあるインフラ・運用・ツールの進化をまとめています。
皆さん、こんにちは!
橘有栖(タチバナアリス)と申します。
現在 Gentoo カーネルチームのリーダーを務め、KernelCI kci-dev の開発者であり、KernelCI Infra WG のメンバーです。
本記事では KernelCI プロジェクトのアップデートについて日本語で紹介します。また、本記事は、私橘有栖も執筆に携わったKernelCI - 2025.Q4 updatesを元に作成しています。
KernelCI については以下のブログでも紹介しているので、あわせてご覧ください。
KernelCI 2025 年 Q4 の更新情報
KernelCI コミュニティは、2025 年をかなり良い形で締めくくりました。前回の更新以降、コミュニティからのフィードバックをもとに、いくつもの興味深い機能や改善に取り組みました。その主な内容をご紹介します。
KernelCI TSC 新体制がスタート
KernelCI は、年次選挙を経て新しい Technical Steering Committee(TSC)の体制を発表しました。TSC は、プロジェクトの技術的な方向性を定め、Linux カーネルテストのエコシステム全体の整合性を支える、重要な委員会です。新体制は 7 名で構成され、Ben Copeland 氏(Linaro)が TSC 議長、Denys Fedoryshchenko 氏(Collabora)が Infrastructure Committee Lead を務めます。さらに、Greg KH 氏、Gustavo Padovan 氏、Mark Brown 氏、Minas Hambardzumyan 氏、Yogesh Lal 氏がコミュニティ選出メンバーとして参加しています。任期は 2026 年 10 月 31 日までで、TSC は隔週の公開ミーティングを通じて技術判断やロードマップの議論を進めています。
コミュニティ拡大に対応し会議の公開カレンダーを新設
KernelCI コミュニティの規模は拡大を続けており、新しい TSC やワーキンググループ、新規参加者の増加に対応するため、すべての会議を告知する公開カレンダーが作成されました。このカレンダーから、誰でも KernelCI コミュニティの会議に参加登録できます。後から見たい人向けに録画も提供されています。
ダッシュボードを大幅改善
この四半期は、プロジェクトの健全性向上にかなり重点が置かれました。API リクエストやシステムリソースの監視が導入され、バックエンドのテストカバレッジも 40% から約 70% 近くまで大きく向上し、ベンチマークテストも追加されました。今後も CI/CD の改善と自動化を進めていく予定です。機能面での大きな成果としては、KCIDB ※ -ng の最終マイルストーンに到達し、KCIDB 投稿の取り込み処理を Django バックエンドにより近づけたことが挙げられます。これにより、KCIDB スキーマをダッシュボードのデータベースから切り離せるようになり、データ正規化の自由度が上がり、API の高速化とストレージ使用量の削減につながりました。また、隔週開催の KernelCI Working Group では新しいアイデアの検討も続いており、この四半期には一部テーブルに「Labs」関連の簡単なフィルタや列を追加する実験も行われました。
Labs 向け Pull-mode の進展
Labs Working Group の取り組みの一環として、各ラボが KernelCI で実行可能なテストに必要な情報を取得できるよう、Maestro インターフェースの pull-mode 対応が進められました。これには、カーネルビルド、テスト用 rootfs、そのほか各組織が自前の環境で KernelCI テストを実行するために必要な情報が含まれます。pull-mode によって、これまで参加しづらかった多くのラボも KernelCI に加わりやすくなると期待されています。特に、企業環境では一般的なファイアウォールの内側にあるラボでも参加可能になる点が大きいです。また、ラボ側は Maestro API を監視し、結果を KCIDB API へ送るだけでよいため、特定のラボ技術に依存しない仕組みになっています。
Linaro による tuxmake / tuxrun / tuxlava の移管
tuxmake、tuxrun、tuxlava の各リポジトリは、KernelCI の GitHub 名前空間で公開されました。KernelCI は Linux カーネルの上流テストおよび継続的インテグレーションの基盤であり、すでに Tuxmake と TuxRun をビルド・テストパイプラインで利用しています。これらのツールが KernelCI 配下に移ることで、カーネルそのものと歩調を合わせながら、より活発なコミュニティの中で発展していけるようになります。Linaro のエンジニアは引き続き共同メンテナおよび主要コントリビュータとして関わり、3 つのプロジェクトはすべて MIT ライセンスのまま維持されます。既存ユーザーやコントリビュータにとって大きな混乱はありません。
コアインフラの安定性と保守性が改善
コアインフラでは、イベント配信の信頼性向上、イベント検索フィルタの拡充、イベント問い合わせの高速化、古いデータ削除処理の修正、データベースや開発ツールの更新などが行われました。さらに、本番ワークフローやコンテナイメージ生成の自動化も強化され、古いビルド設定群の整理、新しい pull ベースのラボ実行環境の追加、LAVA 処理の堅牢化、ストレージアップロードのリトライ対応、forecast レポートの HTML 出力対応など、多方面で基盤の安定性と保守性が高められました。
kci-dev の改善
kci-dev は、Linux ディストリビューションや各ラボがそのまま配布できる、整ったコマンドラインインターフェイス (CLI)スイートとして進化を続けました。目的は、エンジニアがターミナル上で KernelCI 結果を解析し、問題のトリアージを素早く行えるようにすることです。四半期中には、Arch Linux パッケージ対応や Debian パッケージビルドワークフロー改善、issues/validation レポート修正、build-node フィルタ改善を含む v0.1.10 がリリースされました。さらに v0.1.9 では、Q3 時点の機能群を土台に、detect ワークフローの再配置、checkout 向け新規 issue 取得コマンド追加、issues コマンド群の整理など、トリアージと UX の改良が進められました。加えて、boots validation の一覧表示、boot/test JSON 出力への runtime フィールド追加、boot-origin フィルタや結果選択まわりの不具合修正など、検証とレポートの使い勝手も改善されています。2025 年 12 月の東京では、Open Source Summit Japan 2025 で「Getting Started With New KernelCI CLI Tools」が発表され、Linux Plumbers Conference 2025 では Kernel Testing & Dependability の MC と「KernelCI kci-dev: Closing the developer feedback loop」の発表も行われました。
最後に
KernelCI は、コミュニティにとってさらに使いやすいものになるよう、今後も改善を続けていくとしています。安定性向上、Web ダッシュボード改善、kci-dev CLI の充実など、多くの伸びしろがあり、今回の進展はコミュニティ全体の協力によって実現したと締めくくられています。また、ブログ記事には私、橘有栖を含む複数名が「貢献者」として記載されています。
本記事に関連するリンク
- IoT・組込み Linux 向け製品・サービス
- IoT・組込み開発向け 組込み Linux ディストリビューション 「EMLinux」
- An introduction to write KernelCI configuration settings for CIP SLTS Kernel project #01







