2026 年 04 月 13 日
加速する「Matter」対応と、メーカーが享受する開発・セキュリティの恩恵
~メーカーを問わずつながるスマートホーム規格「Matter」入門(後編)~
今後、普及が進むと期待されているスマートホーム機器の新しい共通規格「Matter(マター)」。ユーザーにとってのメリットや将来性について解説した前編に続き、後編では事業者が製品を Matter 対応にするメリットを解説します。Matter を規格化する Connectivity Standards Alliance(CSA)の日本支部代表を務める新貝文将さんにお話を伺いました。

新貝 文将 氏
X-HEMISTRY 株式会社 CEO・代表取締役社長/Connectivity Standards Alliance(CSA) 日本支部代表
J:COM グループでさまざまなインターネット関連サービスの事業立ち上げを経て、2013 年から東急グループでスマートホームサービス「intelligent HOME」のサービス立ち上げを牽引し、Connected Design の CEO に就任。その後、スマートホームベンチャーのアクセルラボの COO/CPO としてスマートホームプラットフォーム SpaceCore の立ち上げを牽引したあと、株式会社 X-HEMISTRY を設立。豊富な事業立ち上げ経験を活かした伴走型ハンズオン支援や実行支援を展開。世界中の IoT 関連企業とのコネクションも幅広く持つ。2024 年 4 月に発足した Connectivity Standards Alliance 日本支部の代表に就任し、スマートホームのグローバル標準規格「Matter」やスマートロックの標準規格「Aliro」の普及推進を牽引。
米国では約 49%!国内でも利用が進むスマートホーム製品の Matter 対応
Matter は、異なるメーカーの IoT 機器を同じ仕組みで連携させることを目的に、Apple や Google、Amazon などが共同で作ったスマートホームの共通規格です。2022 年の 10 月に最初のバージョン 1.0 が登場して以降、半年ごとに新しい仕様が公開され、現在は Matter 1.5(2025 年 11 月公開)まで拡張されています。
メーカーなど事業者の対応は、どこまで進んでいるのでしょうか。Matter を規格化している CSA には、家電メーカーから通信、インフラ事業者まで、さまざまな業態の企業が参画しており、その数は 2025 年 3 月時点で 900 社近くに達しています。
「具体的な対応デバイスの数はカウントが難しいのですが、日本だけでも約 140 種類の製品が販売されています。規格の普及スピードとしては、Matter に先行していたスマートホーム規格 Zigbee(ジグビー)が 10 年で到達した認証数を半年で超える勢いです。
米国は日本に先行してスマートホームの普及が進んでおり、ある調査によれば約 49%の家庭が何らかのスマートホーム機器を使用していますが、実際に量販店では、Matter のロゴを前面に出して商品を展示しており、一般的な認知がかなり広まっていることを実感します」(新貝さん)
X-HEMISTRY では、独自で調査した結果を「日本で販売されている Matter 対応製品一覧」として公開しています。
Matter の仕様策定や技術戦略に深く関与するプロモーター会員は現在 33 社、参画企業は 900 社に迫ります。(出典:https://csa-iot.org/ja/メンバー/)

Matter では異なるメーカーやプラットフォームをまたいだ操作や連携が可能。また、クラウドを経由せず、ローカルのみで使用できるため、ユーザーの操作から機器の動作までのタイムラグが少ない。

かつて Zigbee 規格であった IKEA のブリッジ機器(Dirigera)は Matter コントローラーに昇格。これにより、これまで販売してきた IKEA の製品群との互換性を保ちながら、他社が提供する Matter 製品を直接操作できるようになった。
Matter の設計思想のコア「セキュリティ」
Matter には、異なるメーカーの機器をシームレスに繋ぐこと以外にも、いくつかのメリットがあります。そのひとつが、セキュリティです。
「セキュリティやプライバシー対策が重視される時代に規格化をスタートしたこともあり、Matter の設計思想のコアのひとつとなっています。そのため、標準仕様の中には通信の暗号化やセキュアなソフトウェア更新、プライバシー保護といった、業界のベストプラクティスが織り込まれています。
また、ユーザーが新規にデバイスを登録する際には、それが正規の製品であることを、DCL(Distributed Compliance Ledger) と呼ばれるブロックチェーンを利用した台帳で証明する仕組みがあり、安全に利用できることを保証しています」(新貝さん)

Matter にはセキュリティやプライバシー対策の機能が標準実装されている。

正規品を保証するデジタル証明書、セキュアなソフトウェア更新、通信の暗号化、プライバシー保護などが Matter の仕様として織り込まれている。
開発の手間やコストが削減できる
提供者側にとって、もうひとつの大きなメリットが、開発におけるコスト削減です。Matter には SDK(ソフトウェア開発キット)が用意されており、開発にかかるリソースやコストが圧縮できるのです。
「従来の他の規格では、場合によっては SDK が存在せず、仕様書を読み込んで自分たちで作らねばならないケースもありました。また、従来は、メーカーが製品ごとに Zigbee や Z‑Wave(ジーウェーブ)といった複数のスマートホーム用無線通信規格に対応する必要がありましたが、これらに重複して必要となる開発や検証、製造、維持にかかるコストを Matter に一本化することで大幅に削減できます」(新貝さん)
また、SDK のバージョンは定期的に更新されているため、機能の追加や改善、バグフィックスも容易に更新できるといいます。
「先程説明したセキュリティ機能も、SDK の中に標準で含まれているため、製品ごとに作業が必要であったリソースやコストも大幅に削減が可能です。
確かに Matter には、アライアンスに加盟するコストや認証コストが発生しますが、開発やセキュリティ、さらにはユーザーへのサポートを含めて考えれば、費用がかなり抑えられるはずです」(新貝さん)

開発にかかる人件費や検証費用、セキュリティ対策を勘案すれば、Matter への対応コストは比較的低くなる。
メーカーの独自性は損なわれない
一部のメーカーからは、「Matter を採用するとメーカーの独自性がなくなるのではないか」という懸念も聞かれますが、それは杞憂だと新貝さんは言います。
「Matter はあくまでもアプリケーションレイヤーの共通言語であり、その上にどういう製品を作るかは定められていません。スマートロック製品を例にすれば、堅牢さや信頼性を重視し、集合住宅などの住宅設備として使える製品を作っているメーカーがあれば、低価格をウリにするメーカーや、静脈認証や指紋認証、顔認証といった多機能に注力するメーカーもあります。それぞれ戦う領域が違うのです。
Matter 対応は、開発におけるコスト削減といったメリットを享受した上で、ハードウェアの工夫による差別化、ユーザーが本当に価値を感じるイノベーションに注力できます。クラウドやプラットフォームの構築には不慣れでも、ものづくりを得意とする日本のメーカーや産業にとっても Matter は追い風の規格になると考えています」(新貝さん)

Matter はアプリケーションレイヤーのプロトコルであり、共通機能や言語を定めたものに過ぎず、メーカーによる差別化の余地は大きく残されている。
Matter に関心を持たれた事業者の方は、どのようなアプローチで一歩踏み出せばよいのでしょうか。CSA の日本支部では約 2 ヶ月に 1 回のペースで勉強会を開催しており、X-HEMISTRY 社の代表としても、新貝さんはスマートホーム関連の講演に年に 30 回ほど登壇されています。
「Matter のビジネス利用に関するご質問やご相談があれば、まずはお気軽にご連絡ください。Matter に関することなら当社が丁寧にお答えします」(新貝さん)







