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2025 年 05 月 28 日
iPhone「AppleWallet」が法律上の本人確認方法として利用可能に~マイナンバーカード機能搭載で何が変わる?~
はじめに
2026 年5月、警察庁ならびに総務省より、法律に定める新しい本人確認方法として、マイナンバーカード機能のスマホ搭載である「カード代替電磁的記録」を規定する旨、意見募集が開始されました。この記事では、「カード代替電磁的記録」とは何なのか、スマホに搭載され、クレジットカードや電子マネー、交通系 IC カードなどがまとめて管理できる AppleWallet や GoogleWallet とは何の関係があるのか、何が可能となるのかについて解説します。
出典:警察庁 「犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則の一部を改正する命令案」に対する意見の募集について
出典:総務省 携帯音声通信事業者による契約者等の本人確認等及び携帯音声通信役務の不正な利用の防止に関する法律施行規則の一部を改正する省令案に対する意見募集
本人確認方法見直しの流れが加速していることは過去の弊社ブログ記事でも解説していますが、今回の対応もその一環として、範囲を狭めるのではなく方法の追加が行われるものです。
事業者様におかれましては、利用者の本人確認を幅広くカバーし離脱率を下げることが非常に重要と捉えており、既存の撮影方法廃止が決定した今、IC チップ読み取りや公的個人認証による本人確認方法の実装検討はもちろんのこと、それ以外の新しい方法の実装も検討される状況にあると思います。
しかしながら、カード代替電磁的記録が何であって、事業者様はどうすれば利用できるのか、そのために何をすればいいのかなどが掴みにくい状態であり、今回、それらの情報をまとめることで、今後の対応を検討される事業者様の情報収集の一助としていただければ幸いです。
なお、直近の本人確認方法見直しに関しては以下ブログ記事にまとめていますので、よろしければこちらもご参照ください。
「カード代替電磁的記録」とは
カード代替電磁的記録は、端的には「スマホにマイナンバーカードの情報を搭載したもの」です。マイナンバーカードの代替(カード代替)となる情報(電磁的記録)であって、格納される情報の出所はマイナンバーカードです。細かいお話をすると、「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(以下、番号法)」において、以下のとおりカード代替電磁的記録の内容が定義されており、「マイナンバーカードの情報」と明記されているわけではありませんが、マイナンバーカードの情報が搭載されることに変わりはないため、本記事ではマイナンバーカードの代替として解説していきます。
出典:e-gov 法令検索 行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(平成二十五年法律第二十七号)
この番号法の上記抜粋に記載されている「前項第一号から第五号」は氏名、住所、生年月日、性別(以下、基本4情報)、個人番号となっており、これに本人の顔写真またはそれに該当するものを加えたものがカード代替電磁的記録となります。
AppleWallet や GoogleWallet、スマホ JPKI との関係性
カード代替電磁的記録はそういうものかとわかったけれど、AppleWallet や GoogleWallet との関係性は何なのか、スマホ JPKI と何が違うのか、と疑問を持たれた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
まず、AppleWallet や GoogleWallet について、これらは「カード代替電磁的記録」を提供する機能の名称であり、AppleWallet や GoogleWallet を利用することでカード代替電磁的記録を使うことができるという整理になります。
番号法においては、カード代替電磁的記録の発行、運用などの他、カード代替電磁的記録の送信用プログラム、確認用プログラムについても定められており、各プログラムについては内閣総理大臣の認定を受けるとされています。
出典:e-gov 法令検索 行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(平成二十五年法律第二十七号)
自作のアプリで氏名、住所、顔写真などを格納すればそれでカード代替電磁的記録として使えるわけではなく、その利用にあたっては法律で定められる各種の要件を満たす必要があります。同様に、AppleWallet だから、GoogleWallet だからと無条件にカード代替電磁的記録として使えるわけではなく、それら Wallet も法律に定める要件を満たすことで初めてカード代替電磁的記録を利用可能になるわけです。
次に、スマホ JPKI との違いについて、スマホ JPKI もスマホにマイナンバーカードの情報を格納しているのであれば、カード代替電磁的記録、ひいては AppleWallet などと何が違うのかますますわからなくなってしまったという方がおられるかもしれません。
端的には、スマホ JPKI とカード代替電磁的記録ではスマホに格納される情報が異なります。また、「犯罪による収益の移転防止に関する法律(以下、犯収法)」や「携帯音声通信事業者による契約者等の本人確認等及び携帯音声通信役務の不正な利用の防止に関する法律(以下、携帯法)」で定められる本人確認の方法としても異なります。以下、表にまとめます。
スマホ JPKI | カード代替電磁的記録 | |
---|---|---|
格納される情報 |
|
|
法律で定められる本人確認の方法 | 犯収法「ワ」※2 |
犯収法、携帯法ともに未定義(本記事公開時点) |
- ※1
- 署名用電子証明書の中に基本 4 情報(氏名、住所、生年月日、性別)が含まれているため、これら情報の取得は可能
- ※2
- 犯収法施行規則第 6 条第 1 項第 1 号
- ※3
- 携帯法施行規則第 3 条第 1 項第 1 号
表1:スマホ JPKI とカード代替電磁的記録の差異
スマホ JPKI は電子証明書が格納されますが、マイナンバー、顔写真は取得できません。一方、カード代替電磁的記録は氏名住所などの基本 4 情報に加えマイナンバー、顔写真が格納されますが、電子証明書は取得できません。
また、現時点においてスマホ JPKI は犯収法「ワ」、携帯法「チ」として法的な本人確認に利用することができますが、カード代替電磁的記録は法律上の定めがありません。ただ、この点については冒頭のとおり、新しい本人確認方法としてカード代替電磁的記録を追加する法改正動きが出ています。なお、同法改正にともなう警察庁、総務省の意見募集にてそれぞれ「カード代替電磁的記録を用いた本人確認方法の新設について」という資料が公開されているのですが、この資料を見ると、カード代替記録事項として「振り仮名」が存在することが見て取れます。
出典:警察庁 カード代替電磁的記録を用いた本人確認方法の新設について
2025 年 5 月 26 日の改正戸籍法施行をもって戸籍に振り仮名が記載されるようになりますが、戸籍に記載されるのは 2026 年 5 月以降になる旨が法務省より公知されており、少なくとも現時点で振り仮名の情報は整備されていません。当然、現時点のマイナンバーカード上にも振り仮名の情報は格納されていません。
ゆえに、上記資料の振り仮名は「改正戸籍法の施行後、戸籍に振り仮名が記載された後」の対応になると想定されます。
カード代替電磁的記録をどう使うか
先述で、カード代替電磁的記録に AppleWallet、GoogleWallet が含まれるというお話をしました。では、それをどう利用していけば良いのかを解説します。
まず、GoogleWallet の対応については現時点で公知になっている情報がありません。いつからカード代替電磁的記録の搭載が行えるのか、そもそも対応するのかも明確ではありません。しかしながら、時期はともかくとして、iOS、Android 両方でカード代替電磁的記録が使えてこそなので、対応が行われることは間違いないと考えています。
AppleWallet の対応は、Apple 社や河野太郎前デジタル大臣が以下の情報発信をしており、2025 年春に行われる見込みです。
出典:Apple 「Apple、日本での Apple ウォレットの身分証明書機能の展開を発表、米国外で初」
出典:河野太郎 X ポスト
何月までを春というかはなかなか難しい問題ですが、2025 年 5 月にカード代替電磁的記録の利用における法改正意見募集が開始されていることから、法改正後の交付・施行時期と AppleWallet でカード代替電磁的記録が可能になる時期は重なるのではないかと考えられます。
AppleWallet でカード代替電磁的記録を利用するには、Apple が用意する API を活用する必要があります。この API は対面用と非対面用で以下の通りわかれています。
- 対面用 :ID Verifier
- 非対面用:Verify with Wallet API
オンラインでカード代替電磁的記録を利用する場合、非対面用の Verify with Wallet API を利用する必要がありますが、本 API は、現時点でネイティブアプリからの呼び出しが必要とされています。つまり、Web から直接の API 実行はできないということで、IC チップ読み取り含め、アプリの用意は事業者様にとって大きなポイントになります。なお、Verify with Wallet API は非対面用の API ですが、カード代替電磁的記録の利用として対面 / 非対面の区別はないため、非対面用に構築した仕組みを対面で利用することも可能です。
アプリからの呼び出しには Verify with Wallet API の実装を行う必要がありますが、サイバートラストでは、この API 連携を簡易に行うための機能開発を進めています。AppleWallet の対応後、速やかに機能提供できる準備をしていますので、AppleWallet 利用に興味がある、情報収集を行いたいという事業者様は、是非お問い合わせフォームからご連絡ください。
なお、当然ではあるのですが、事業者様が AppleWallet の呼び出しを行っても、利用者が AppleWallet にカード代替電磁的記録を格納していないと利用することはできません。
利用者がカード代替電磁的記録を格納する操作方法は具体的に明かされていないものの、スマホ JPKI の搭載同様、マイナポータル経由で登録を行うことになると想定しています。あわせて、利用者がカード代替電磁的記録を利用するときの認証について、これは FaceID などの生体情報を利用することが可能であろうと思われます。
ただ、カード代替電磁的記録を利用した本人確認はその取引に限るもので、本人確認後の状況を確認すること=現況確認や、現況確認の結果に基づく最新の基本 4 情報を取得することはできません。現況確認や最新の基本 4 情報取得を活用される場合、公的個人認証の利用が必要になります。
また、AppleWallet が対応しても GoogleWallet は今後という状況もあり、カード代替電磁的記録にだけに対応すればよいというものではなく、本人確認した後の継続的顧客管理をどう行っていくかも視野にいれ、事業者様にとって最も適切な本人確認方法を選択、優先度の高い利用方法として利用者の本人確認を誘導していく必要があります。
さいごに
今回の法改正にともなう意見募集は、犯収法、携帯法でそれぞれ以下となっています。
- 犯収法:2025 年 5 月 9 日 - 2025 年 6 月 7 日
- 携帯法:2025 年 5 月 17 日 - 2025 年 6 月 16 日
いずれも公布日が示されていないものの、犯収法においては施行期日が「公布の日から施行する」とされており、AppleWallet の動きとあわせると、2025 年 7 月~8 月頃には公布されるのではないかと想定されます。
「撮影方式の廃止が決定し、その対応をどうするか検討している中で、さらに検討事項が・・・」と頭を抱えられる事業者様も多いのではないと思い、心中穏やかなものではないとお察ししますが、速やかな対応が新たなビジネスチャンスを生む機会になり得ます。これを機として、IC チップ読み取りをはじめとする厳格な本人確認方法を導入し利用者の安全を確保するとともに、事業者様のバックエンドを含めた全体の処理効率化を進めることも可能であろうと考えます。
サイバートラストの iTrust 本人確認サービスは、カード代替電磁的記録への対応だけではなく、公的個人認証を行うための機能提供、現況確認や最新の基本 4 情報取得、スマホ JPKI の対応、マイナンバーカードだけでなく運転免許証や在留カードの IC チップ読み取りなど事業者様の本人確認シーンを幅広く支援します。
オンラインの本人確認に関わる方法が目まぐるしく変化する現状、弊社のパーパスである「安心・安全なデジタル社会の実現」に向け価値を発揮していけるところと自負しておりますので、まずは情報収集というだけでも、お気軽にお問い合わせフォームからご連絡ください。