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IoT 技術コラム

2023 年 11 月 10 日

サイバートラストにおける WiFi HaLow の取り組み

1. はじめに

サイバートラストの事業の柱のひとつに IoT 事業があります。IoT とは Internet of Things、すなわち、すべてのモノ・コトがインターネットを通じてつながった世界で何ができるか、何が必要かを考えていこうという取り組みです。「I」はインターネットであり、「つながる」ということが非常に重要なポイントになります。モノ・コトのデジタル化だけでは、IoT とは呼べません。ネットワークを通じて通信しあい、つながることが大切なのです。

この記事では、IoT 向けの通信方式のひとつである WiFi HaLow(「わいふぁい・へいろー」と読みます ) について、IoT 事業を推進するサイバートラストでの取り組みについて、簡単に紹介したいと思います。

2. Hello, HaLow

WiFi HaLow とは LPWA と呼ばれる低消費電力広域通信方式のひとつで、IEEE802.11ah で規格化されています。IEEE802.11 というくらいなので、一般的な WiFi( 無線 LAN) と同じように扱える規格で、通信距離が 1Km 程度、通信速度が数 Mbps という特徴があります。

いわゆる IoT 向けの通信規格は色々な種類があり、通信速度、通信距離、消費電力などで棲み分けがされています。WiFi HaLow は屋外での広域通信でありながら、動画や音声をやりとり可能な高速通信が可能であるという特徴があります。

ただし、国内では実行帯域のうち 10% しかそれぞれの端末で通信を行ってはいけないというルールがあることに注意が必要です。

今回、MegaChips 社様から WiFi HaLow の評価環境をお借りできましたので、通信特性について簡単に計測してみました。評価環境なので、グラフにはあえて単位をつけていません。傾向だけに着目してください。

WiFi HaLow の評価環境

 

計測は、WiFi HaLow で通信する中継装置の両端で、ネットワークのベンチマークである iperf3 を実行し、それぞれのインターフェースのカウンタを記録しました。単位時間ごとの送信量が分かります。これをグラフにプロットしたものが以下になります。縦軸が単位時間あたりの送信量、横軸が時間です。

 単位時間ごとの送信量

これをみると、一定時間ごとに、通信量がすとんと落ちている箇所があることが分かります。タイムスロットごとに 10% ルールに基づく通信量を使いきった場合に、送信が停止するようになっています。一律に送信量が 10% に抑えられるわけではないようです。このような伝送路の場合、上位層である TCP の再送制御などへの影響が考えられるので、今後もう少し細かく評価していきたいと考えています。

3. EMLinux meets HaLow

MegaChips 様からお借りしたモジュールでは、RaspberryPi ベースのボードに一般的な Linux ディストリビューションが搭載されていました。サイバートラストでは、EMLinux という組み込み向け Linux ディストリビューションを開発・提供しています。これは組み合わせなければなるまいと考え、現在、EMLinux での WiFi HaLow ドライバの対応を進めています。

EMLinux と WiFi HaLow は相性がよいと考えています。

EMLinux と WiFi HaLow

先に述べたように、IoT 向けの通信方式は用途に応じた色々なものが存在します。たとえば、Bluetooth(BLE) や ZigBee は主に近距離低消費電力な環境で用いられます。屋内でセンサ類を接続するために用いられたりしますが、このドメインで用いられるコンピュータは ESP32 や Arduino などの小型マイコンが多いです。一方、LTE や衛星通信のように WAN に接続する方式は、直接インターネットと通信ができるという特性がある一方で通信コストは高くなります。

EMLinux は RaspberryPi のような民生用ワンボードコンピュータだけではなく、産業用途を主に想定しているため、ターゲットデバイスは小型センサーの領域よりは高額で、WAN 接続を含んだそれ以下の LAN 接続などになります。このドメインの通信方式は、通常の無線 LAN(WiFi) になりますが、長距離の通信を行うためには WiFi HaLow の適用ドメインが合っていることになります。

では、WiFi HaLow と EMLinux の組み合わせの適用ドメインでは、どのような応用例が考えられるでしょうか。いくつか挙げてみます。

まず農業です。

 応用例「農業」

注 : 画像は AI 生成

日本では、小規模の農家が圧倒的に多いようで、北海道を除くと農家一戸あたりの農地面積は平均 1ha 程度とのことです。1ha というのは 100 メートル四方なので、WiFi HaLow の電波が到達する規模ということになります。気温湿度雨量の細かな計測、あるいは土の状態の計測なども、農地に設置された複数のセンサの情報を WiFi HaLow で伝送して収集することができます。

規模からすると、海外では少し規模の大きな園芸も適用範囲でしょう。ニュージーランドで園芸を趣味にする方の家を訪問したことがありますが、温度・湿度・雨量の監視など、こまめに行うのが普通だと聞いて、驚いたことがあります。

監視が必要という観点では、畜産、水産養殖なども同様でしょう。

 応用例「畜産、水産養殖」

注 : 画像は AI 生成

観測範囲が広く、また観測地点から、データを実際に扱うコンピュータ ( 主に自宅や事務所に設置されているでしょう ) との間が 1km 程度は離れている場合、WiFi HaLow を伝送路に用いることは理にかなっています。

一方で意外な監視ということで、著者が関わったことのある事例をご紹介しましょう。それは、原生林の観察です。

 原生林の観察

注 : 画像は AI 生成

とある大学の先生から、原生林の様子を環境センサーの値と一緒に観測できるようにしたいという相談を受けたことがあります。この気温になったらこの野鳥が泣き出した、といった観測が目的でした。この時は WiFi HaLow は規格そのものが存在せず、先生方は有線 LAN を原生林に引いてセンサーとカメラ・マイクの出力を取得していました。いまであれば、センサーの値に加えて音声と映像を伝送できる WiFi HaLow と EMLinux の組み合わせを提案できるだろうなと思います。

EMLinux の強みは、CIP カーネルを採用した長期サポートや、SIOTP によるセキュアなアップデート配布、OSS パッケージのトレーサビリティの確保といった点です。また、EdgeAI をはじめとした Linux のソフトウェア資産を活用できる利点もあります。これらは、長期間運用する環境センサ・画像認識モジュールなどのフィールドで価値を発揮すると考えています。

4. おわりに

WiFi HaLow こと IEEE802.11ah の規格が制定されたのは、2017 年です。国内で技適を取った製品が出始めたのが、2022 年末くらいからでしょうか。2023 年は、アプリケーション開発者の手にデバイスが渡る元年、2024 年はフィールドでの適用が始まる元年と言えそうです。

EMLinux をはじめとした、IoT 分野への当社の取り組みについてのご質問は、「お問い合わせフォーム」よりお問い合わせください。

また、2023 年 11 月 15 日〜17 日に開催される EdgeTech+ 2023 では、サイバートラストのブース(小間番号 B-R01)にて EMLinux + WiFi HaLow をはじめとする各種ソリューションを出展いたします。EdgeTech+ 2023 にお越しの際は、ぜひサイバートラストのブースにもお立ち寄りください。

EdgeTech+ 2023 サイバートラストのブースについて

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